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【青空文庫】二流の人 感想

二流の人

 

 昭和初期に活躍した「無頼派」の代表的作家である坂口安吾の短編小説。初出は「二流の人」[1947(昭和22)年]。舞台は天正18年夏。北条征伐の最中に、黒田如水は家康と会談を行った。優れた戦略家として如水は秀吉に重宝されていたが、この会談から家康に魅了されることなる。天下を取る夢を見ながら、ついに果たせなかった「二流の人」黒田如水の生涯を描いた歴史小説

 

著作権が切れているような古い歴史小説を読む機会はあまりなかったのですが、一度読み始めると中々面白かったので、同じく坂口安吾織田信長(未完)も勢いで読んでしまいました。

歴史小説は、司馬遼太郎とか池波正太郎とか藤沢周平とか有名所はある程度読んでますが、だいぶ気色が違う感じがしますね。哲学っぽいのが含まれているというか、作者から見た歴史上の人物への批評みたいなのが濃い気がします。

織田信長についてはそれが特に顕著で、彼の生き方とか考え方が書かれているという感じでした。最近戦国時代と言っても、温い感じの作品が多いので中々刺激的です。常に死が身近にあったから、明瞭な死生観を持っていたっていうのは、何ともかっこよくはありますが、真似できる芸当ではないですね。

常に生命を賭けているから、いつ死んでも後悔はない。うーん、かっこいい。でも、真似は出来ない。

黒田如水に関しては、秀吉と家康、二人の話も多かったですけど、やっぱり家康は狸、狸って言われてて、大河ドラマとかでもそういう感じに描かれてますけど、イメージしているのは、狸爺を演じている何か、みたいな、狸って言うほど周りを化かしているかなぁって感じが強い。

だから、この人の家康の方が私はしっくり来る。夢や野心はその都度大きくなるもので、最初から狙っていたわけではないとか。

 

 如水と秀吉は、もう何か今でも変わらないなって感じでしたね。昔からの秀吉像が現在まであって、如水のイメージもある。最近如水の大河やってて、ちょっとだけ見てましたけど、あんまり変わりないんじゃないかと。

如水は悪党に成り切れなくて、狙いを天下に定めると途端に二流の人になってしまう。でも、才能は一流。家康が他人の褌で相撲を取る事はしないって書いてありましたけど、如水は常に他人の褌で相撲を取ってましたから、その違いっていうのはやっぱりあるなとは思いました。まあ、関ヶ原では如水も頑張ってましたけど、漁夫の利を狙うのが何とも如水らしいと言いますか。悪い意味ではなくて。

如水は戦国武将の中でもかなり好きな方なんですけど、こういうちょっと抜けてると言うか、突き抜けてないところも魅力だと思うんですよね。なので、結構面白かった。

 

ちょっとだけ出てきた直江兼続も中々面白かったですね。

戦争狂ってところとか、今だと中々書けないだろうなーとか。直江兼続もかなり好きで、上杉景勝の方が好きなんですけど、正義みたいなのを前面に押し出されている今の書かれ方より、戦争狂の方が面白くはありますね。家康と戦ってみたいから兵を挙げた、みたいな。ちょっと突き抜けすぎているとは思いますけど、面白いってのはあると思う。

全体を通して、当時の価値観みたいなのは分からないですけど、今の価値観を盛り込まれた歴史小説とか大河ドラマよりは、面白いと思いました。特に死生観とか、やっぱり現代の考え方を輸入されるとちょっと萎えるっていうのがあって、昔の歴史小説の方が面白いなぁと。

青空文庫はかなり面白い小説揃ってるみたいなので、今後も暇な時には読んでいこうかなと思います。